研究
【すい臓がんの早期発見に光】尿のマイクロRNA検査が早期すい臓がんでも優れた検出感度を達成
- 公開日: 11/18/2024
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- 最終更新日: 11/19/2024
すい臓がんは、他のがんに比べて早期発見が特に難しいがんのひとつです。
その理由は、すい臓がんの進行が早く、初期段階では特有の症状がほとんど現れないことにあります。多くの場合、患者が医師にかかる時点では既にがんが進行し、手遅れになっていることが少なくありません。
特に進行したすい臓がんは治療が難しく、5年生存率はわずか1.8%にとどまるという、非常に厳しい現実があります。このため、すい臓がんをできる限り早く見つけ、治療に繋げることが重要です。
実際に、ステージ1ですい臓がんが発見された場合の5年生存率は約50%、さらに腫瘍が1cm以下の段階で見つかれば、5年生存率は約80%に達するとも言われています。早期発見は、まさに生存率の劇的な改善につながるのです。
しかし、すい臓がんには他のがんのような定期的な検診プログラムがありません。
さらに、膵臓は体の奥深くに位置し、一般的な画像検査や血液検査でも発見が困難です。このような状況の中、すい臓がんの早期発見を実現するために、新たな検査方法の開発が切望されています。
そんな中、慶応大学、北海道大学、鹿児島大学、川崎医科大学、熊谷総合病院、北斗病院、国立がん研究センター、名古屋大学と名古屋大学発バイオテックのCraif のチームの共同研究により、尿中の微量な「マイクロRNA」を用いた非侵襲的な検査法が、すい臓がんの早期発見に貢献できる可能性が示されました。
すい臓がんの早期発見のために、これまで血液検査や画像診断などさまざまな検査法が模索されてきましたが、どれも初期段階では確実な診断が難しいという壁にぶつかってきました。
そんな中、今回の研究で発表された「尿を使ったすい臓がん検査法」は、この問題を大きく変える可能性があります。驚くべきことに、わずか3ミリリットルの尿ですい臓がんを高精度で発見することができるというのです。
本記事では、著名な医学学術雑誌Lancetの姉妹紙であるeClinicalMedicineに発表された論文の内容を、わかりやすく解説します。
\すい臓がんもステージ1から/
尿でがんのリスク検査
「マイシグナル・スキャン」
尿のマイクロRNAを調べ、がんリスクをステージ1から判定。早期発見が難しいとされるすい臓がんをはじめ、日本のがん死亡総数の約7割を占める7つのがんリスク※を、⼀度でがん種別に調べます。
- ※ 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)、ただし造血器腫瘍を除く
目次
すい臓がん早期発見の鍵を握るのは「マイクロRNA」と「エクソソーム」
すい臓がんの早期発見における革新の鍵を握っているのが「マイクロRNA」と「エクソソーム」です。
これらはどちらも非常に小さな生体分子であり、私たちの体の中で密かに情報を運んでいます。
特にがん研究の分野で注目されるのが、がん細胞がマイクロRNAをエクソソームという「ナノサイズの小包」に詰め込んで送り出しているという事実です。
これは、がん細胞が周囲の細胞に情報を伝え、がんの進行を助けるための手段と考えられています。
マイクロRNAとは?
マイクロRNA(miRNA)は、遺伝情報の一部である「RNA」に由来し、体内で細胞の活動を微調整する役割を果たしています。がん細胞がこのマイクロRNAを変異させたり、特定のマイクロRNAを大量に分泌することで、自身の増殖を助けたり、他の組織に拡がりやすくしたりします。
このように、がんに関連するマイクロRNAのパターンが存在するため、マイクロRNAはがんの存在を示す「バイオマーカー(生体指標)」としての利用が期待されています。
エクソソームとは?
エクソソームは、マイクロRNAやその他の分子を内包し、がん細胞から分泌される微小な袋のような構造です。この袋は、血液や尿、唾液などの体液にのって、体中を巡ります。
がん細胞が送り出したマイクロRNAを含むエクソソームは、がん細胞に都合の良いメッセージを詰め込んだ封筒のようなもので、他の細胞に取り込まれ、がんの成長を支援するメッセージを伝える役割も果たしています。
まさに「細胞間メッセンジャー」として、がんの拡大に関わる重要な存在といえるでしょう。
「エクソソーム」を尿から抽出する方法がブレークスルーに
研究チームが尿によるすい臓がんの早期発見技術を開発する上で一番苦労したのが、尿中に含まれる「マイクロRNA」があまりに微量なため、データを正確に解析するための十分なシグナル強度がなかなか得られないことでした。
本研究のブレークスルーは、マイクロRNAが含まれたエクソソームを尿から効率的に抽出してからマイクロRNAを取り出してデータ解析を行うと、うまくマイクロRNAの信号が解読できるということを発見したことにありました。
研究チームは、エクソソームを特殊な手法で尿から取り出し、その中に含まれるマイクロRNAを細かく解析することにより、通常尿からマイクロRNAを直接解析した時と比較して、シグナルの強度を8倍にまで引き上げることに成功しました。
この方法の開発により、ようやくすい臓がん特有のマイクロRNAパターンを安定して検出することができたのです。
多くの医療機関からすい臓がんの尿検体を収集し、高精度なAIを開発
本研究では、機械学習というAI解析の手法を用いることで、すい臓がんを高精度に検出できるアルゴリズムの開発を行いました。
機械学習とは、簡単に言うと「コンピュータがたくさんのデータを使って、自分でルールやパターンを見つけ出し、未来の予測や判断ができるようになる技術」です。
例えば、猫の写真と犬の写真を大量に見せると、コンピュータは「これが猫、これが犬」と見分けるための特徴(パターン)を学習し、最終的には新しい写真でも猫か犬かを判断できるようになります。
この「たくさんのデータ」というのが、機械学習で重要なポイントです。
コンピュータが精度高く判断できるようになるためには、できるだけ多くのデータが必要です。例えば、最初は犬と猫の写真を10枚ずつしか見せなかったとしたら、まだ学習が足りず、猫と犬をうまく見分けられないかもしれません。でも、100枚、1000枚・・・とたくさん見せれば、だんだんと特徴が見えてきて、ほとんどのケースで正確な判断ができるようになります。
つまり、機械学習では「どれだけたくさんのデータを使って学習させるか」が精度を決める大きな要因のひとつなのです。
今回の研究では、より正確なAIアルゴリズムを開発するために、たくさんのデータを集める必要がありました。特に、早期発見が得意なアルゴリズムの開発のためには、早期ステージのすい臓がんのデータを多めに収集する必要があったのです。
すい臓がんは早期でみつかる例が少ないので、それはとても困難なことでした。
より多くの早期すい臓がんの患者さんから尿検体を集めるために、北斗病院、川崎医科大学、鹿児島大学、熊谷総合病院、国立がん研究センター中央病院など、多くの医療機関が今回の臨床研究に参加しました。
2019年から研究を開始して約4年間かけてようやく、すい臓がん患者153名と、がんを持たない健康な人309名の尿を分析することができました。
早期ステージのすい臓がんにおいても優れた検出感度を達成
その結果開発されたAIアルゴリズムは、すい臓がん全体での検出感度は約94%、特に早期ステージで発見されたすい臓がんにおいては97%という驚異的な感度を記録しました。
また、このアルゴリズムが本当に機能しているのかを確かめるために、AIが一度も学習していない患者さん・健康な人の新しいデータを解析させたところ、一貫した性能を出すことができました。
健康な人を「すい臓がんである」と判定しないように、健康な人の5%にしか間違いの判定が起こらないような厳しい設定(このラインを特異度95%といいます)にチューニングしても、早期ステージ(手術で切除可能なステージI/IIAを指します )のすい臓がんの検出感度は88%というパフォーマンスでした。
これは、同じ患者グループに対して行われた血液マーカーCA19-9を用いた従来の検査が、早期がんの段階で37.5%の感度しか持たなかったことと比較しても、遥かに優れた結果です。血液検査に比べ、この尿検査法が非常に高い精度で早期がんを見つけ出せることが証明されました。
- * eClinicalMedicine. 2024; 77: 100972. (グラフは感度と特異度のバランスが最も良いしきい値を設定した場合の数値。詳細はこちらの論文(英語)をご参照ください)
がんそのものだけでなく、がん微小環境を捉えることで早期発見を実現
今回の研究では、尿中のマイクロRNAを利用したすい臓がん検査法が非常に高い精度を持つことが明らかになりました。特にまだ小さな早期ステージのがんの段階でも確実に検出できるという驚くべき結果が得られました。どうして、そのようなことが可能なのでしょうか?
そのメカニズムを明らかにするために、研究チームは、すい臓がんグループでシグナルが変化した45種類のマイクロRNAがすい臓がんの病態とどのように関連しているかを調べました。
その結果、そうしたマイクロRNAがすい臓がんの発症と進行に関連するいくつかのシグナル伝達経路に関わっているだけでなく、がんの周囲にある細胞ネットワークである「がん微小環境」に関わる細胞のシグナル伝達経路に関わっていることが明らかになったのです。
がん微小環境とは、がん細胞が体内で成長するために、周囲の細胞や組織とともに形成する「支援ネットワーク」のようなものです。がん細胞は単独で存在するのではなく、自分のまわりにいるさまざまな細胞や構造とコミュニケーションをとりながら、成長や拡散を助ける仕組みを作っています。
特にすい臓がんの組織には、がん微小環境を構成する「間質細胞」が多いことが特徴で、この間質ががんの成長や拡散において重要な役割を果たしています。
尿中マイクロRNAを用いた検査は、がんの周囲の環境に存在する細胞のシグナルもうまく利用することで、がんが小さい早期段階でも、すい臓がんの存在を把握できるのだと考えられます。
すい臓がん医療の未来へ向けて – 自宅でできる検査がもたらす新たな選択肢
この尿検査法が一般に普及すれば、自宅で簡単に尿を採取してがんのリスクをチェックできる可能性が広がります。特にすい臓がんのように診断が難しいがんについては、病院に行かなくても、早期段階でリスクを把握し、必要に応じて専門医の診察を受ける機会が増えることでしょう。
また、この検査法はすい臓がんだけでなく、他のがんの早期発見にも応用される可能性があり、がんによる死亡率を低減させる一助となると期待されています。
マイシグナル・スキャンなら自宅ですい臓がんのリスク検査ができます。
ノーベル賞受賞で注目を集める「マイクロRNA」を実用化した、がんリスク検査サービスです。
検査キットを使って自宅から尿を送るだけで、ステージ1から今のがんリスクを調べることができ、自宅から尿を送るだけなので、痛みはもちろん、食事制限もなく、仕事や家庭の予定を調整する必要もありません。
その高い利便性と信頼性から、日本全国の700以上の医療機関に導入されています。まずは1年に1度、マイシグナル・スキャンですい臓がんのリスク検査、始めてみてはいかがでしょうか?
\すい臓がんもステージ1から/
尿でがんのリスク検査
「マイシグナル・スキャン」
尿のマイクロRNAを調べ、がんリスクをステージ1から判定。早期発見が難しいとされるすい臓がんをはじめ、日本のがん死亡総数の約7割を占める7つのがんリスク※を、⼀度でがん種別に調べます。
- ※ 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)、ただし造血器腫瘍を除く
この記事の監修者
水沼 未雅
博士(薬学)、薬剤師
京都大学薬学部卒業。東京大学大学院 薬学系研究科にて博士号(薬学)取得。アストラゼネカ株式会社のメディカルアフェアーズ部門にて、新製品の上市準備、メディカル戦略策定、研究企画、学術コミュニケーション等を経験後、Craifにて事業開発に従事。