研究

【ノーベル賞で注目】尿のマイクロRNAを実用化、マイシグナル・スキャン開発秘話

  • 公開日: 10/15/2024
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  • 最終更新日: 10/16/2024
  • #ノーベル賞受賞記念
【ノーベル賞で注目】尿のマイクロRNAを実用化、マイシグナル・スキャン開発秘話

2024年、ノーベル生理学・医学賞に選ばれたことで、マイクロRNAは初めて大きな注目を集めました。

そして、この技術の実用化において、日本が世界の最前線に立っていることをご存知でしょうか?

マイシグナル・スキャン」は、尿中のマイクロRNAを測定し、7種類のがんリスクを判定できる世界初の検査です。この製品がどのようにして実現したのか、今回はその背景を紐解いていきます。

※マイシグナル・スキャンの誕生秘話について、過去のTV取材でも一部ご紹介しておりますので、こちもぜひご覧ください。

ノーベル賞受賞のマイクロRNAを実用化!

マイクロRNAがんリスク検査
「マイシグナル・スキャン」

マイシグナル・スキャンは尿に含まれる「マイクロRNA」をAIで解析し、高精度に、今のがんリスクを調べる世界初※の検査です。

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きっかけは、日本が誇るナノテクノロジー

安井教授とマイクロRNAとの出会い

マイシグナル・スキャンの開発における中心人物は、ナノテクノロジーを医療分野に応用する先駆者、安井隆雄教授(当時は名古屋大学、現・東京科学大学(旧: 東京工業大学))です。

数々の科学的な功績が認められ、文部科学大臣の若手科学者賞などを受賞している安井教授はCraifの共同創業者でもあります。

安井 隆雄

東京科学大学 (旧: 東京工業大学) 生命理工学院 教授。2014〜2019年ImPACTプロジェクトマネージャー補佐就任、2015〜2019年JSTさきがけ研究員、2019年〜2023年再度JSTさきがけ研究員を拝命。2018~2023年名古屋大学大学院工学研究科・生命分子工学専攻准教授。研究テーマはナノ空間を利用した新奇生命分子解析手法の開発。

がん細胞から正常細胞へ輸送され、正常細胞のがん化因子の一つとなるエクソソームの定量解析を目指している中で、ナノワイヤを利用して、わずか1ミリリットルの尿からがんを特定する技術を新たに開発。同技術を実用化すべく、代表の小野瀨と共に2018年5月にCraif株式会社を創業。

安井教授とマイクロRNAの出会いは、2012年の国際学会で国立がん研究センターの落谷孝広教授の講演を聞いたことがきっかけです。

講演で落谷教授は、「細胞が分泌するエクソソームに含まれるマイクロRNAを調べることで、がんの兆候を発見できる。今後、がん研究の主流はエクソソームになるだろう」と語りました。

当時、マイクロRNAの新しい役割が次々に明らかになる中で、がんの早期発見に応用できるのではないかという期待が高まりましたが、実用化はまだ難しい状況でした。

その最大の課題の一つが、マイクロRNAをどうやって効率よく捕捉するかという点です。体内には細胞やタンパク質、DNAなどさまざまな物質が存在し、その中から特定のマイクロRNAを捕らえるのは非常に困難でした。

そこで、安井教授は自身の持つナノテクノロジーを活かしてこの課題を解決できるのではないかと考え、落谷教授の講演を聞いた翌週には、すぐにマイクロRNAの研究に着手しました。

マイクロRNAに関する重要な発見

研究を進める中で、安井教授はマイクロRNAを効率的に捕捉できる独自のナノデバイスを開発しました。このデバイスを活用して、マイクロRNAの研究がさらに進展しました。

特に大きな発見は、尿中に1300種類以上のマイクロRNAが存在することを突き止めたことです。これは従来知られていた数よりもはるかに多いことが明らかになりました。2017年には、この成果が『Science Advances』誌に掲載され、さらに5種類のがん(肺がん、すい臓がん、卵巣がん、肝がん、膀胱がん)ごとに特有のマイクロRNAパターンがあることも示されました。(Yasui et al. 2017)

安井教授は、「この発見ががんリスク検査の実用化に繋がるのではないかと思った」と当時を振り返っています。医学の常識では、検査は血液で行われますが、尿でより簡便にできることが大きな進展でした。この研究は約5年かけて結実したのです。

「マイクロRNA」実用化への道

マイクロRNA実用化に向けた2つの課題

このように、マイクロRNAの実用化の可能性が見えてきましたが、大学での基礎研究の成果が実用化されるまでには、どんな技術でも多くのハードルがあります。マイクロRNAによるがんリスク検査もその例に漏れず、いくつかの重要な課題が残っていました。

課題 1 膨大なデータの収集と効率的に処理する高度な解析技術

がん種ごとにマイクロRNAパターンが異なることが分かってきましたが、その違いを確認するためには、健康な方とがん患者の方の尿を大量に集め、データを解析する必要があります。少なくとも数千人規模の尿サンプルが必要であり、この収集が大きな課題です。

また、1000種類以上のマイクロRNAを一度に測定するため、一人分のデータでも非常に大きくなります。これらを解析して、正確にがんリスクを判定するには、膨大なデータを効率よく処理できる高度なAI技術が求められます。

課題 2 –  微小なマイクロRNAを測定する高い技術力と品質管理

検査を実用化するためには、再現性が極めて重要です。すなわち、何度測定しても安定した結果が得られる必要があります。しかし、マイクロRNAは非常に小さく、その量も少ないため、精密な技術が求められます。さらに、DNAやメッセンジャーRNAなど他の物質と仕分ける必要があり、これが測定の難しさを増大させます。

例えるなら、ジャングルの中で特定の植物を見つけて、その正確な本数を数えるような作業です。似たような植物が多く存在する中で、間違いなく見つけるためには、非常に高い技術が必要です。

このように、実用化には多くの技術的課題を乗り越える必要があります。マイクロRNAが世界的に注目されながらも、実用化に至っていなかったのにはこのような背景がありました。

Craif株式会社の設立とマイシグナルの開発

安井教授は自らが共同創業者として、2018年にCraif株式会社を設立。実用化に向け、前述の課題を解決すべく開発を進めてきました。

Craifでは全国のがんセンターや大学病院と共同研究を通じて、これまでに1万検体以上の尿サンプルを収集。尿中のマイクロRNAの測定を進めることで、どのがん患者にどのマイクロRNAがどのくらい含まれているのか、膨大なデータベースを構築し、AIによる解析を進めてきました。

その結果、すい臓がん、大腸がんを含めた7つのがん種に関して、各がん種ごとのマイクロRNAのパターンを特定することが可能になったのです。

さらに20以上の特許技術を駆使しながら、わずか100万分の1ミリという微細なマイクロRNAを再現よく測定できるよう、技術開発を進めてきました。

開発した測定手法は、検体の管理、保存や測定まで、高度にデジタル化された最先端のデジタルラボの中で運用されています。現在は臨床検査技師等に関する法律で定められた施設基準や検査体制を満たすとして、愛知県知事により登録された衛生検査所の中で徹底的に品質にこだわった測定を行っています。

そして2022年2月、マイクロRNAとの出会いから約10年にわたる研究の末、世界初※の尿中マイクロRNAを用いたがんリスク検査「マイシグナル・スキャン」を発売することができました。

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マイクロRNAを用いたがんリスク検査、マイシグナル・スキャン

「マイシグナル・スキャン」は、尿を送るだけで簡単にがんリスクをチェックできる検査です。

2024年10月時点では、全国750以上の医療機関で導入されています。サービス開始時は卵巣がんのみ対応していましたが、現在は7種類のがん (すい臓、大腸、肺、胃、食道、乳房、卵巣 ※)を一度に検査可能です。ノーベル賞を受賞した技術をベースにした世界初のサービスを、ぜひ体験してみてください。

  • 卵巣がん、乳がんは女性のみ検査対象となります

ノーベル賞受賞のマイクロRNAを実用化!

マイクロRNAがんリスク検査
「マイシグナル・スキャン」

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次回は、がんの早期発見を促進していくための自治体との取り組みについてご紹介していきます。

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