がんの症状

膵臓(すいぞう)がんの症状・原因・治療方法とは?背中の痛み、黄疸、他

  • 公開日: 10/2/2023
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  • 最終更新日: 10/17/2024
  • #膵臓癌(すいぞうがん)
膵臓(すいぞう)がんの症状・原因・治療方法とは?背中の痛み、黄疸、他

日本では、2019年に4万人以上がすい臓がんと診断され(*1)、毎年3万人以上の方がすい臓がんで亡くなっています(*2)。

一方で、すい臓がんは、進行するまでなかなか症状が出ないことが多く、がんの中でも発見が難しい疾患です。がんが見つかったときには、ステージIVということも少なくありません。すい臓がんは、ステージIVまで進むと生存率がかなり低くなってしまうため、早期発見が大切です。そのためには、日々自分の体調に気を配ることが必要です。

しかし、すい臓がんの症状とは一体どういったものでしょうか。なんとなく体調がいつもと違うと気にはなっていても、毎日の仕事や家事に追われ、検査に踏み切れない方は多いかもしれません。この機会にすい臓がんの症状について詳しくみていきましょう。

  • すい臓がんは早期発見が大切
  • 遺伝や生活習慣がすい臓がんの危険因子になり、加齢とともに患者数が増える
  • すい臓がんの病期は0期からIV期まであり、診断された人の80%がステージIV
  • 早期発見できれば、5年相対生存率は50%以上
  • すい臓がんには明確な初期症状がない
  • すい臓がんの主な症状には、腹痛、食欲不振、早期膨満感、黄疸、体重減少、背部痛がある
  • すい臓がんは、その多くが膵頭部に発生し、ほかのすい臓の部位よりも黄疸症状が出やすい
  • すい臓がんと診断される半年ぐらい前から、25%の人がお腹に何らかの違和感を覚える
  • すい臓がんの症状はほかの病気でもみられるものなので、症状だけで診断はできない
  • すい臓がんの初期検査には、血液検査や腹部超音波検査などがある
  • 自宅で簡単にできるすい臓がんのスクリーニング検査がある
  • 初期検査で異常がみられた場合、CTやMRIなどの精密検査を行う
  • すい臓がんの治療には、手術、化学療法、放射線療法などがある
  • すい臓がんと診断された場合、自分が納得する治療を選ぶことが大切

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膵臓(すいぞう)とは?

症状の話をする前に、すい臓について少し勉強しましょう。

質問者

質問者

すい臓は、洋ナシのような形をしていると聞いたことがあります。

先生

先生

その通りです。すい臓は、胃の後ろ側、みぞおちの少し下にあり、長さ約20 cmの臓器です。胃の後ろ、つまり背中の方にあります。

図1 すい臓と周囲の臓器の関係

すい臓には2つの大切な機能があります。

  1. 食べ物の消化を助ける「すい液」を分泌(すい液に含まれる酵素が消化を促進する)
  2. 血糖値を調節するホルモンを分泌(血糖値を下げるインスリンや血糖値を上げるグルカゴンなどのホルモンを作り、血液中に送って血糖値を調節する)

すい臓の働きが低下すると、体にも不調が出てきます。たとえば、すい液の分泌が不十分になると、食べ物をうまく消化できなくなるので、下痢になったりお腹にガスがたまったりすることがあります。インスリンの分泌が足りないと、血糖値が上がり、糖尿病になるリスクが上がります。

すい臓がんの原因・リスク因子は? 

どうしてすい臓がんになるのかは、まだわかっていません。しかし、すい臓がんにかかりやすい人や生活習慣の影響については少しずつ明らかになってきました。

すい臓がんになるリスクには、大きく分けて、家族歴や遺伝に関するリスク、自分の病気に関するリスク、嗜好に関するリスクがあります。

1. 家族歴
まず、親や兄弟姉妹がすい臓がんになったことがある場合、すい臓がんになったことがない家系と比べて、リスクが1.5~4.5倍になります。また、「遺伝性膵がん症候群」といって、ある特定の遺伝子を持っていると、リスクが高くなります。

2. 糖尿病
次に、糖尿病がある人のリスクは、糖尿病がない人の約2倍です。また、すい臓がんになると、糖尿病が悪化することもあります。

3. 慢性膵炎
慢性膵炎は、すい臓で炎症が長期間起きている状態で、慢性膵炎のない人の13.3~16.2倍のリスクがあります。

4. 膵管内乳頭粘液性腫瘍
膵管内乳頭粘液性腫瘍は、膵管の中にのう胞(袋状のもの)ができ、膵管(すいかん)が広がる病気で、すい臓がんになりやすい病気と言われています。

5. 遺伝性膵炎
遺伝性膵炎とは、「1つの家系に2世代以上にわたり2人以上の膵炎患者がいて、若年発症で胆石やアルコールの関与がない膵炎」と定義され、リスクが67~87倍高くなります。

6. 肥満
肥満もすい臓がんのリスクです。肥満指数(BMI)が30kg/m2以上になると、リスクが1.3~1.4倍になることがわかっています。

7. 喫煙・飲酒
喫煙者がすい臓がんになるリスクは、非喫煙者と比べて約2倍高くなります。喫煙本数が多ければ多いほど、リスクも上がります。また、長期にわたって大量の飲酒をしている人は、リスクが1.1~1.3倍高くなります。

すい臓がんのリスクは何歳から?

すい臓がんにかかった人の割合を年齢別にみてみると、男女ともに50代から少しずつ増え始め、60代以降は加齢に伴って急激に増えていることがわかります(図2)。高齢者人口の増加に伴い、すい臓がんにかかる人の数も多くなっています。

図2 年齢階級別罹患率

一方、図をみてもわかるように、40代ごろまでの若年者では罹患率が低い傾向にあります。特に30代以下の若年層では、人口10万人当たりの罹患者数は、10人以下にすぎません。

質問者

質問者

ステージという言葉をよく聞きますが、具体的にどういう意味なのかわかりません。

先生

先生

ステージはがんがどのぐらい進行しているかを表す指標です。詳しくみていきましょう。

すい臓がんのステージ(病期)

「ステージ」は「病期」とも言われ、がんの進行程度を表す指標です。すい臓がんの病期は0期からIV期まであり、数字が大きくなるほどがんが進行していることを意味します。ほかの臓器への転移があるかどうかも病期の判断基準のひとつです。体の状態の把握だけでなく、治療方針の決定のためにも、病期を知ることはとても大切です。

すい臓がんの病期の決め方

日本ですい臓がんの病期を評価するときには、「膵癌取扱い規約(日本膵臓学会編)」または「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」を用います。
次に示すT、N、Mという3種類の評価の組み合わせで、がんを分類します。

TNM分類

T:がんの広がり がんがすい臓の中だけにあるのか、ほかの臓器や血管などに広がっているのかを評価します。
N:リンパ節への転移 がんがリンパ節に転移しているかどうかを評価します。転移している場合は転移があるリンパ節の数を記録します。
M:ほかの臓器への転移 がんが肝臓、腹膜、肺、骨、脳などのほかの臓器に転移しているかどうかを記録します。

IA、IB、IIA、IIB、III、IVといったローマ数字は、それぞれすい臓がんのステージを表しています。例えば、ほかの臓器などへの転移がある場合は、ステージIVに分類されます。

図3 すい臓がんの病期(日本膵臓学会)
図4 すい臓がんの病期(UICC第8版)

すい臓がんが見つかった時点で約40%がステージIV

すい臓がんには特徴的な症状がなく、特に初期の段階では症状がほとんど出ません。そのため、病院に行くタイミングが遅くなってしまいがちです。病院に行き、検査の後にすい臓がんと診断された人の40%がステージIVです(*3)。すい臓がんのステージIVとは、「ほかの臓器などへの転移がある」状態で、すい臓がんが見つかったときには、多くの場合すでにほかの臓器などへ広がってしまっていることを意味します。

  • *3がん情報サービス 膵臓がん

すい臓がんの生存率はどのくらい?

先生

先生

生存率は、すい臓がんの状態や進行程度により大きく異なります。5年相対生存率は、ステージIVまで進行してしまうと1%台です。一方、がんがすい臓内にとどまっているステージIでは51.8%と半分以上です(*4)。



表1 病期と相対生存率
病期相対生存率
Ⅰ期51.8%
Ⅱ期22.9%
Ⅲ期6.8%
Ⅳ期1.4%
  • 性別は「男女」、年齢階級は「全年齢」、手術の有無は「全体」
質問者

質問者

早めに見つかれば生存率も上がるんですね。

先生

先生

そういうことです。

質問者

質問者

ただ、日々の体調に注意しておくといっても、すい臓がんになるとどういう症状が出るのでしょうか。何か具体的に注意しておくことはありますか。

先生

先生

すい臓がんにはどんな症状があるのか、今から詳しくみていきましょう。

膵臓(すいぞう)がんの症状

実は、すい臓がんにはこれといった明確な初期症状がありません。そのため、腹痛、食欲不振など、ほかの疾患や体調不良との区別が難しく、症状だけですい臓がんを見分けることはできません。偶然ほかの検査で見つかったり、ずいぶん進行してから発覚したりすることが多いのです。

すい臓がんの症状として、黄疸、背中・腰の痛み、下痢・便秘、腹水がたまる、痩せる、体重減少、食欲不振、吐き気などが知られています。これらのうち、約半数以上の人が訴える症状として、腹痛、食欲不振、早期膨満感、黄疸、体重減少、背部痛が膵臓癌診療ガイドラインに挙げられています。



表2 すい臓がんの症状
症状%
腹痛72〜82%
食欲不振64%
早期膨満感62%
黄疸56〜80%
体重減少66〜84%
背部痛48%

出典:

                      
質問者

質問者

確かにどの症状も漠然としています。お腹が痛くても、すい臓がんだとはまず思いません。

先生

先生

そうなんです。逆に、これらの症状があるからといって、すい臓がんだとも言えません。ほかの疾患で同じような症状が出ることがあるからです。

質問者

質問者

でも、がんが進行すると、特別な症状出るとか、症状が悪化するといったことはないんでしょうか?

先生

先生

一般的には、ステージが進めば症状も出やすくなると言えるかもしれません。しかし、残念ながら、それぞれのステージに特徴的な症状があるかと言えば、それもよく分かっていないんです。

次に、すい臓がんの主な症状について詳しくみていきましょう。

黄疸(おうだん)、尿の色が濃い、体がかゆい

黄疸とは、体の皮膚が黄色くなることです。最初は尿の色が濃くなったり、目の白目部分が黄色くなったりします。黄疸が進行すると、皮膚が黄色くなり、かゆみが出ることがあります。すい臓がんは、その多く(78%)が膵頭部に発生し、膵頭部のがんはほかのすい臓の部位よりも黄疸症状が出ます。

ただ、黄疸があるからといって、すい臓がんとは限りません。胆石症、急性肝炎、ほかのがんなど、別の病気が原因かもしれません。また、すい臓がんになったからといって、必ずしも黄疸が出るわけではありません。

質問者

質問者

ときどき、みかんを食べすぎると手のひらが黄色くなることがあります。

先生

先生

手のひらは黄色くなるけれど、目の白目部分は白いときは、かんきつ類の食べすぎが原因かもしれません。黄疸とは異なりますので様子をみてください。

背中、腰、お腹の痛み

すい臓がんが進行するにつれ、背中、腰、お腹が痛くなることがあります。すい臓のまわりには多くの神経があります。みぞおち、背中の左側に痛みがあり、痛みがだんだん強くなっていきます。また、すい臓がんと診断される半年ぐらい前から25%の方がお腹に何らかの違和感を覚えます。

一方、椎間板ヘルニア、尿路結石、坐骨神経痛などのほかの疾患でも、似たような症状が出る可能性があります。

食欲不振、体重減少

すい臓がんになると、がんがまわりの臓器を圧迫するため、食欲がなくなることがあります。また、食べ物の消化を助ける「すい液」の流れが悪くなると、栄養がうまく吸収できずに体重が大幅に減ります。特にダイエットをしていないのに原因不明の体重減少が続くときは、注意が必要です。

一方で、食欲不振や体重減少はほかの疾患でもみられます。例えば、精神疾患、糖尿病、歯の問題などです。

腹部膨満感

腹部膨満感とは「お腹が張っている」ような感覚のことです。すい臓がんにより、腹部膨満感が出ることがあります。

ただ、便秘、ストレス、運動不足やほかの疾患でも同様の症状がみられる場合があります。

そのほかにも、吐き気、下痢、便秘などの症状が出る人もいます。すい臓がんでみられる症状とそれらの原因についてもみておきましょう。



表3 すい臓がんの症状とその原因
症状原因
上腹部不快感自律神経の異常 (?)
軽症膵炎
黄疸、かゆみ、濃縮尿、発熱、右上腹部痛胆管の閉塞や炎症
腹痛、背部痛膵管の狭窄や膵炎
糖尿病の発症・急性増悪、下痢膵の機能低下
食欲不振、嘔吐、体重減少、消化管出血消化管浸潤
腫瘤触知、背部痛、腹部膨満腫瘍自体による
腹部膨満、腹水、腸閉塞腹膜転移

膵臓(すいぞう)がんの検査方法

すい臓にがんがあるかどうかを調べるためには、さまざまな検査が必要です。まず、初期検査として、症状を確認するとともに、血液検査、腹部超音波検査などを行います。初期検査で異常が確認された場合、さらに詳しい検査を行います。すい臓がんの正確な診断のためには、専門医の診察と検査が必要です。

すい臓がんの初期検査方法と費用

すい臓がんの初期検査には、血液検査、腫瘍マーカー、腹部超音波検査の3つがあります。

いずれも職場や市区町村の健康診断や人間ドックに含まれているか、かかりつけ医で簡単にいつでも調べることができます。費用も高額ではなく、体への負担も大きくありません。

血液検査:
すい臓がんがあると、アミラーゼやリパーゼなどの値が高くなります。血液検査でこれらの数値が上昇しているか調べます。費用は、保険適応時で約1000~4000円、自己負担時で約1万円です。所要時間は、通常の血液検査と同様です。通常の血液検査と同様で、体への負担は大きくありません。詳細はこちらの「血液検査でがんはわかる?検査対象のがんの種類・費用を解説」をご覧ください。

腫瘍マーカー:
すい臓がんに特徴的なタンパク質が血液や尿に含まれているか調べます。すい臓がんの腫瘍マーカーにはCA19-9、SPan-1、DUPAN-2、CEA、CA50などがあります。通常、血液検査で調べます。費用は、自己負担時で各マーカーあたり約3000円です。所要時間、体への負担は通常の血液検査と同様です。

腹部超音波検査(腹部エコー):
すい臓の状態を超音波で調べます。費用は、保険適応時で約500~2000円、自己負担時で約5000円です。所要時間は20分ほどで、身体的な負担もなく、安全な検査です。被ばくの心配がないので、妊娠中でも検査を受けることができます。

その他、すい臓がんの初期検査についての詳しい説明はこちらの「膵臓(すいぞう)がんとは?検査の種類・費用、早期発見のためできること」をご参照ください。

質問者

質問者

血液検査も超音波検査も、病院に行く必要がありますよね。特に気になる自覚症状はないけれど、家族や身近な人がすい臓がんになって急に心配になった人や、忙しくて検査に行く時間はない人が簡単にできる検査はあるでしょうか?

先生

先生

例えば年齢的に一度検査しておきたい人には、自宅で簡単にできるがんのスクリーニング検査があります。尿をとって検査機関に送るだけなので、時間的、身体的な負担もありません。

スクリーニング検査について詳しく知りたい方はこちらのすい臓がんのリスク検査のページをご参照ください。

再検査、精密検査の種類

初期検査で異常が見つかったときは、さらに詳しい検査を行います。初期検査だけでは、すい臓がんの診断はできないからです。精密検査には、CT検査、MRI検査、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、細胞診・組織診、PET検査などがあります。

CT検査
エックス線を用いて、がんの大きさ、位置、ほかの臓器への転移を確認します。小さいがんを見つけることができます。費用は、保険適用時で約2000~1万5000円、自己負担時で約2~5万円です。検査時間は15分程度で、ペースメーカー、入れ歯、人工関節といった金属が体内に入っていても検査ができます。


MRI検査
磁気の力を使って体内を撮影し、がんの大きさ、位置、ほかの臓器への転移、膵管に異常があるかを確認します。費用は、保険適用時で約3000~2万円、自己負担時で約3~6万円です。CT検査よりも時間がかかります。放射線被ばくの心配がありません。画像のコントラストが鮮明なので、がんがはっきり見えます。


超音波内視鏡検査(EUS)
先端に超音波画像装置が付いた内視鏡を口から入れて、すい臓の状態を至近距離で調べます。必要に応じ、検査中に細胞や組織を採取する超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)もできます。費用は、保険適用時で約7000円、自己負担時で2万~2万5000円(細胞を採取する場合、金額が変わります)です。CTやMRI検査では見つからなかった小さながんを見つけることができます。


内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
内視鏡を使って、膵液や胆汁の流れる管をエックス線で直接観察します。費用は、保険適用時で2000~6000円、自己負担時で約2万円です。CTやMRI検査と比べて、より詳しく膵管の状態を調べることができます。


細胞診・組織診
EUSやERCP時などで採取した細胞や組織を病理医が顕微鏡で観察し、がんかどうかを調べます。費用は、検査の種類によって異なりますが、良性か悪性かの判断もできます。


PET検査
すい臓がんの可能性があるとき、がん細胞かどうかを確かめられます。費用は、保険適用時で1~3万円、自己負担時で約10万円です。ほかの検査で診断が確定できないときのみ、保険診療で受けることができる検査です。

いつ、どのタイミングでどの検査を行うかは、検査を受ける人の体の状態や症状に合わせて医師が判断します。独自の基準や検査の流れがある施設もあります。精密検査では、初期検査とは異なり高額となる場合があり、体への負担も大きくなります。詳細はこちらの「全身のがんを調べるPET(ペット)検査とは?費用・結果の見方を解説」をご覧ください。

すい臓がんの精密検査の詳細についてはこちらの「膵臓(すいぞう)がんの精密検査の種類、費用、特徴は?」をご覧ください。

膵臓がんの治療方法

すい臓がんと診断がついた後は、検査結果やがんの進行の程度はもちろん、年齢、体の状態などに応じてこれからどういう治療を行うかを医師が検討します。すい臓がんの治療方法には、手術、化学療法(薬物療法)、放射線療法などがあり、手術と化学療法や放射線療法を組み合わせたりすることもあります。

治療を始める前に、自分がどういう治療を求めているのかを担当医師に伝え、提案された治療が自分の希望に合ったものかどうかを確かめることが重要です。

質問者

質問者

そのためには、自分の病気について知ることが大切ですね。

先生

先生

そのとおりです。納得して治療を始めるために、自分の意思を伝え、担当医師とよく話し合ってください。

図5 すい臓がんの治療の流れ

外科治療(手術)

すい臓がんの治療では、手術ができるかどうかをまず検討します。手術ができると判断された場合、次の2つのうちいずれかの治療を行います。

・手術のみ
・手術と化学療法(薬物療法)の組み合わせ

がんの部位に応じて、手術の方法が異なります。

膵頭十二指腸切除術 主に膵頭部にがんがある場合。十二指腸、胆管、胆のうを含む膵頭部を切除します。
膵体尾部切除術 膵体尾部にがんがある場合。すい臓の体部と尾部、脾臓を切除します。消化管は切除しません。
膵全摘術 がんがすい臓全体にある場合。すい臓を全て切除します。 手術の費用は保険適応時で約50~90万円(*5)で、入院期間は平均して30日未満です。手術の後は、感染、腹膜炎、出血の可能性があります。また、一時的に吐き気が出ることもあります。

例えば、ほかの臓器にがんが転移していて手術ができないときは、化学放射線療法や化学療法を行います。ただし、最初に手術ができないと判断されても、化学療法や化学放射線療法を一旦行ってから、「腫瘍が取り切れる」と判断されれば手術をすることがあります。痛みの程度や食欲不振などの症状によって、支持療法や緩和療法も行います。

放射線療法、化学放射線療法

手術ができないときは、放射線療法や化学放射線療法を行います。

放射線療法:
手術のできない場合やほかの臓器に転移があるときに痛みを和らげる目的で行われます。特に骨に転移がみられ痛みがある場合、放射線療法はとても有効です。治療後、皮膚の色素沈着、吐き気、嘔吐、食欲不振などの副作用※が出ることがあります。

化学放射線療法[化学療法(薬物療法、抗がん剤治療)と放射線療法]:
すい臓以外の臓器への転移がない状態でも、手術ができない場合には化学放射線療法を行います。放射線療法と化学療法(薬物療法、抗がん剤治療)の両方を行うことで、治療の効果が高くなると考えられます。放射線療法後には、皮膚の色素沈着、吐き気、嘔吐、食欲不振などの副作用※、化学療法では、しびれ、口内炎、吐き気、脱毛、下痢、白血球、赤血球の数の減少などの副作用※が出ることがあります。

※副作用の程度には個人差があります。

放射線療法と化学療法の内容は、治療を受ける方の体の状態、がんの進行状態、体調、痛みの程度によって異なります。

化学療法(薬物療法、抗がん剤治療)

化学療法とは、抗がん剤による治療のことです。薬を内服または点滴します。がんの進行、再発、転移の防止、全身状態の改善が目的です。手術や放射線療法などと組み合わせることもあります。薬の種類は、がんの状態、治療目的、体の状態などの要素を検討して決定します。手術や放射線療法と比べ、効果が広範囲です。手術ができない人、ほかの臓器に転移がみられる人にも行うことができます。

ただし、全身状態が悪化した人、腎機能障害や肝機能障害がある人、高齢者には化学療法が実施できない場合があります。

副作用は使用する抗がん剤やその組み合わせによって大きく異なります。一般的に、しびれ、口内炎、吐き気、脱毛、下痢などが起こることがあります。また、白血球や血小板などの数が少なくなったり、肝機能や腎機能が悪化したりすることがあります。最近では、吐き気や嘔吐をはじめとする副作用を緩和する薬も開発されています。

免疫療法

最初に行った化学療法(一次化学療法)の効果がなくなったときは、体の状態に応じて別の抗がん剤を用いた化学療法(二次化学療法)を行います。その際、化学療法のひとつとして免疫療法を行うことがあります。

免疫療法は、免疫細胞のひとつであるT細胞が免疫の力でがんを攻撃する治療法です。科学的に効果が証明された免疫療法のほとんどは、このT細胞によるがん細胞攻撃力を保持、強化することで、効果を発揮します。

免疫療法によって起こる副作用は、薬物療法と比べて少ないと報告されています。一方、科学的に効果が証明された免疫療法でも、さまざまな副作用が起こることがあります。

どの治療を行うにしても、提案された治療についての説明をよく聞き、自分がどのような治療を希望しているのかを伝え、納得できるまで担当医と話し合ってください。わからないこと、不安なことは、遠慮せずに医師や看護師に質問し、自分が納得したうえで治療を選び、治療を始めることが大切です。

まとめ

ここまでをまとめましょう。

  • すい臓がんは早期発見が大切
  • 遺伝や生活習慣がすい臓がんの危険因子になり、加齢とともに患者数が増える
  • すい臓がんの病期は0期からIV期まであり、診断された人の80%がステージIV
  • 早期発見できれば、5年相対生存率は50%以上
  • すい臓がんには明確な初期症状がない
  • すい臓がんの主な症状には、腹痛、食欲不振、早期膨満感、黄疸、体重減少、背部痛がある
  • すい臓がんは、その多くが膵頭部に発生し、ほかのすい臓の部位よりも黄疸症状が出やすい
  • すい臓がんと診断される半年ぐらい前から、25%の人がお腹に何らかの違和感を覚える
  • すい臓がんの症状はほかの病気でもみられるものなので、症状だけで診断はできない
  • すい臓がんの初期検査には、血液検査や腹部超音波検査などがある
  • 自宅で簡単にできるすい臓がんのスクリーニング検査がある
  • 初期検査で異常がみられた場合、CTやMRIなどの精密検査を行う
  • すい臓がんの治療には、手術、化学療法、放射線療法などがある
  • すい臓がんと診断された場合、自分が納得する治療を選ぶことが大切

すい臓がんは初期の頃はほとんど症状が出ず、がんが見つかったときにはかなり進行している場合が少なくありません。何か不調を感じたら、我慢することなく病院へ行きましょう。早期の段階でがんが見つかれば、生存率も上がります。

忙しくて病院に行く時間のない方、検査での身体的負担が気になる方は、まずは自宅でできるがんのスクリーニング検査から始めるのもひとつの方法です。あのとき検査しておけば、とならないためにも、すい臓がんリスクのある方や体に不調を感じている方は、積極的に検査を受けてみることをお勧めします。

参考サイト
  • 本記事に記載されている費用は当社(Craif)が独自で調べたものになります。実際の費用は各医療機関にお問い合わせください。

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