がん検査
膵がん“1cmの壁”に挑む──尿から見つける、がん早期発見への挑戦
- 公開日: 9/18/2025
- |
- 最終更新日: 9/19/2025

写真左から市川 裕樹氏(Craif株式会社 CTO)、廣岡 芳樹氏(藤田医科大学 医学部 消化器内科学講座 教授)。
【プロフィール】
廣岡 芳樹
藤田医科大学 医学部 消化器内科学講座 教授
名古屋大学医学部卒。医学博士(名古屋大学)。名古屋大学医学部附属病院准教授を経て現職。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会消化器病指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本消化管学会胃腸科指導医、日本膵臓学会認定指導医、日本胆道学会認定指導医、日本超音波医学会超音波指導医(消化器)、日本医師会認定産業医など多数の資格を持つ。
市川 裕樹
Craif株式会社 最高技術責任者(CTO)
東京大学大学院で薬学博士号を取得後、バイエル薬品にてMR・マーケティング・経営企画など幅広く従事。幼少期の海外経験と技術的バックグラウンドを活かし、NPOを通じてザンビアなどへの医療テクノロジー導入も支援。2019年よりCraif株式会社に参画し、ヘルスケア領域での価値創出に取り組む。
「サイレントキラー」と呼ばれる膵がん。
初期にはほとんど自覚症状がなく、腫瘍マーカーや画像検査でも見つけにくいため、発見されたときにはステージ3や4ということも珍しくない。
「年齢調整死亡率が男女ともに増えているのは膵がんだけです。2024年には、膵がんが日本のがん死亡者数で第3位に浮上しました。膵がんの5年生存率はわずか8%。新たな治療法の開発が追いつかない以上、予後を大きく変える方法の一つが“早期発見”です。 日本膵臓学会の調査によれば、腫瘍径が1cmの段階で発見できれば、5年生存率は80%になるという研究結果も報告されています。つまり「1cm未満の膵がんをとらえる」ことが膵がん患者さんの予後を分ける境界線なのです。」膵臓の専門家である藤田医科大学 消化器内科の廣岡芳樹教授はそう語る。
この難題に、真正面から挑んでいる技術がある。バイオAIスタートアップCraif(クライフ)が開発した尿中のマイクロRNAからがんのリスクを検知する「マイシグナル・スキャン」だ。
「マイシグナル・スキャンは、尿を採るだけで膵がんをはじめとする10種のがんのリスクをステージ1から高精度に検知できる世界初の検査です。慶應義塾大学や国立がんセンター等、50を超える大学病院等と共同研究を実施しており、膵がんに関する研究論文は昨年医学界の著名雑誌に掲載されました。」と、クライフ社の最高技術責任者(CTO)市川裕樹氏は語る。
「病変の芽を検知するマイクロRNAは、(がんが進行し)壊れた組織から漏れ出すタンパク質を検知する従来の腫瘍マーカーとは発想が大きく異なるアプローチです。膵がんの早期発見において、マイクロRNAはゲームチェンジャーになり得ると私は信じています。」(廣岡教授)
また、マイシグナル・スキャンはがんの種類を特定してリスクを判定できることも重要な特徴だ。がんのリスクが高い場合でも、その種類によって、次にどこでどんな検査を受けるべきかは大きく異なる。判定に応じて次のステップを明確に示すことで、“受けて終わり”ではなく着実に早期発見・早期治療に繋げるところまでを目的とした検査なのだ。
「今の医療は、進行がんへの治療に偏りがちです。体力・時間・お金と多くを犠牲にする前に、もっと手前で向き合える医療を広げたいと感じています。がんは早期に見つけて治療すれば、元の生活に早く戻れる可能性が高くなります。マイシグナル・スキャンを通じて、人々ががんにしっかり向き合い、“天寿を全うする社会”の実現を目指していきたいです。」(市川CTO)
マイシグナル・スキャンのがんの早期発見に対する性能の高さは自治体と連携した実証実験でも確認されている。昨年、北海道大学等と協力し、北海道岩内町でマイシグナル・スキャンを100人に配布したところ、60代女性で超早期の「ステージ0」の肺がんが見つかり、簡単な手術で完治した。「大腸がんと膵臓がんでも計6名、がんになる前段階の病変を見つけました。」(市川CTO) まさにまだ誰も気づいていないがんの兆候を捉えることができたのだ。
この結果は高精度かつ非侵襲で超早期のがんを検知できるマイシグナル・スキャンの可能性を強く裏付けるものとなった。
マイシグナル・スキャンは現在、藤田医科大学羽田クリニックをはじめ、全国1,000件を超える医療機関で導入されている。
「当院の膵がん検診は、経営者や医師など、“自身が倒れると多方面に影響が大きい”方の受診が目立ちます。責任の重い立場にあるほど、『膵がんだけは見逃せない』という危機意識が強いのです。そうした方々の期待に応えるために、藤田医科大学羽田クリニックでは、最新の新たに開発された撮影技術をいち早く導入したMRI画像検査に加え、現時点で我々が考える様々なバイオマーカーによる検査を、従来の検査手法の限界を補完する新たな技術との組み合わせとして導入しています。私は、マイクロRNAは特に有用性が高い指標だと感じており、尿に関する指標として最も信頼するマイシグナル・スキャンの導入を決めました。当院の膵がん検診は、マイシグナル・スキャンをはじめ現時点ではこれ以上はないと我々が考えるプログラム構成となっており、早期、つまり1cm未満の膵がんの検出に、大きな可能性を感じています。また、当院では膵臓に付く内蔵脂肪(脂肪膵)から膵臓がんのリスクを評価する新たな画像診断技術も組み込んでいます。発症リスクを低下させるためのアドバイスをすることで、“早期発見”と“予兆をとらえること”に挑戦した特別な膵がん検診なのです。」(廣岡教授)
「マイシグナル・スキャンは、医療機関だけでなく、マイシグナル公式ECサイトや法人向け窓口を通じて、自宅用のキットとしてもご利用いただけます。 経営者の方がご自身の健康管理の一環として利用されたり、社員向けの福利厚生として導入されるケースも着実に増えています」(市川CTO)
実際に、導入企業の社員から早期の大腸がんが発見され、早期治療により、短期間で復帰できたというケースも出てきている。
マイシグナルは今、次なるステージへと歩を進めている。国内での取り組みにとどまらず、すでにアメリカでの研究にも着手。FDA承認を視野に入れたプロジェクトが始動している。「クライフは最先端のバイオAI技術(マイクロRNA×AI)を用いてがん医療の抜本的改革に本気で向き合う、世界のリーディングカンパニーでありたいと思っています」(市川CTO)
がんと向き合う新しい選択肢が、確実に広がっている。
この記事をシェア
この記事の監修者

博士(薬学)、薬剤師
京都大学薬学部卒業。東京大学大学院 薬学系研究科にて博士号(薬学)取得。アストラゼネカ株式会社のメディカルアフェアーズ部門にて、新製品の上市準備、メディカル戦略策定、研究企画、学術コミュニケーション等を経験後、Craifにて事業開発に従事。
カテゴリから探す
キーワードから探す

